親戚のおじさんから、100杯のドリップコーヒーが届いた。
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大学1年生の春、静岡を離れ、仙台で一人暮らしを始めた。
GWになると実家から手紙と荷物が届いた。嬉しさ半分恥ずかしさ半分で、いそいそと段ボールを開ける。
その中に見慣れないアイテムがあった。緑色の直方体には、
「絆創膏 100枚入り」
と書いてあった。
それから6年が経とうとしているが、100枚の絆創膏は一向に減る気配がない。これは想像を超えて途方もない数で、例えば大学の4年間で使おうと思ったら1年で25枚。およそ2週間に1回は怪我をしないと使いきれない。スポーツもしなければ包丁もロクに握らない人間にとって、それは至難の業だった。いつしか100枚の絆創膏は役割を失い、救急箱の奥底へと眠ることになった。
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あれは今でも、ウチにあるのだろうか。100杯のコーヒーを見てふと思い出し、居ても立ってもいられなくなった。ホコリを被った救急箱をまさぐると、ぺちゃんこの箱が情けない表情で出てきたのだった。
「まだいたのか。」
「いたさ。ずっとここにね。」
「君がいつ怪我をしても良いように、僕はずっとここにいたんだよ。」
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6年前の段ボールの温もりまで、そこにあるようだった。
たまには料理でもするか。コーヒーに何が合うかを考えながら、包丁はあったっけかな、とキッチンへ向かう。