「やばいバンドがあるから聴いてよ!」
中3の頃、同じクラスのKからそう紹介されたのが、BUMP OF CHICKENだった。
Kとは仲が良く、よくうちでモンハン2ndGで遊んでいた。いつものように彼をうちに呼び、その日はゲーム機の代わりにラジカセを取り出し、Kの持ってきた『ユグドラシル』を聴いた。
その10年後、僕はKとふたりで東京ドームに行き、BUMP OF CHICKENのライブを見ている。
Kとは、同じ高校に進学した。
中3の冬、僕は『西高』を、Kは『南高』を受験する予定だった。妥当な選択だったし、進路面談でもそれは決まっていた。
受験を控えた年末、僕とKは偶然本屋で会った。そのときのことは残念ながらよく覚えていないが、Kの証言によれば、どちらかが音楽雑誌を読んでいて、「あれ?おまえギター興味あるの?」と驚いたらしい。
受験が終わったら、ギターを始めるつもりだった。そして、Kも同じことを考えていた。スマホのない時代、田舎でギターの情報を仕入れようと思ったら、町に一件しかないその本屋に行くしかなかったのだ。
だから僕がKと本屋で会ったのは、偶然のようでいて、実は必然だったのかもしれない。
最初は確か、僕から言ったと思う。「だったら、」
「だったら、同じ高校行って、バンドやろうよ。」
Kは受験直前にも関わらず、南高をやめて西高を受験した(先生、Kの親御さん、彼の突然の進路変更は僕のせいです。ごめんなさい。苦笑)。そして結果的には、ふたりとも無事合格した。
僕とKは受験が終わると、ふたりで楽器屋へ行き、色違いのギターを買った。
店は当時大ブームだった『けいおん!』一色だった。まだオタク文化への風当たりが強かったあの頃、『ギターを始める』=『けいおん!に感化されたオタク』と見なされる気がして、思春期の僕らはうんと肩を張り、「俺らは違うかんな。けいおん!なんかじゃなくて、BUMPやELLEがやりたいんだかんな。」と意固地になって、店の門をくぐった。(そしてその数年後、僕もKも、けいおん!に見事ドハマりした)
しかし中学生に買えるギターなんて、たかが知れている。僕もKもなけなしのお年玉を握りしめて、『初心者入門セット』と書かれたコーナーへと向かった。よく晴れた暖かい春の日だった。
ギターはレスポールモデルで、黒とチェリーサンバーストが用意されていた。
見た目だけで言えば、黒はELLEGARDENの細美武士、チェリーサンバーストは放課後ティータイムの平沢唯だった。
その二択だった。
…。
じゃん、けん、ぽん!
思えばKには、何かを我慢させてばかりだ。
その10年後、僕はKとふたりで東京ドームに行き、BUMP OF CHICKENのライブを見ている。
Kも僕も、もう子供ではない。高校3年間を振り返ったり、酒を飲みながら仕事の話をする歳になった。
大人になった僕らは『車輪の唄』のイントロで、目を合わせ、くしゃりともニヤリとも言えぬ笑みを浮かべた。
ああ。
10年前、ラジカセから流れた音楽に、そして中学生の僕らに、まさか東京ドームで会えるとは。