6歳の頃から、同じ机を使っている。
要は小学校に上がるときに、親が買ってくれた物を使い続けている。多少の改造はしたものの、基盤となる「机」は当時のままだ。そして18年間、一度も手放したことは無い。
子供の頃に弟と喧嘩して、カッターナイフで椅子を切られた。避けた革の隙間からは綿が飛び出し、綿はくり抜かれて穴となった。それでも僕は、椅子を使い続けた。いつの間にか、穴があることも忘れてしまった。
たぶん、そこそこ高級な物だったのだろう。だから僕のようなガサツな人間でも、18年間も使い続けられたのだ。思えば引っ越しのたびに、「邪魔だから捨てたい」と言う自分と、「絶対に捨てるな」と言う親とで喧嘩になっていた。
ところが、そう、なんだってそうだ。
終わりは突然やってくる。
新しい椅子を買った。めちゃくちゃ安いやつを。完全なる思い付きだった。
アンティーク家具みたいな椅子を除けて、僕の机にはいま、4000円の椅子がすぽりと収まっている。
長年連れ添った椅子を除けるとき、不思議と悲しくはならなかった。すでに僕は、新入りのそいつに夢中だった。冷静に考えれば絶対に以前の椅子の方が良いはずなのに、ピカピカの見慣れないそいつに首ったけだった。
…ああそうか、浮気ってきっと、こんな気持ちなんだ。
あの椅子の座り心地を、ときどきふと思い出す。
穴が開いていても気にならなかった。なんだかんだで気に入っていた、あの椅子。
ところが、そう、なんだってそうだ。
一度開いた穴は、二度と埋まることは無いのだ。