ユーモア

追いコート。

関東某所に、コートを一着しか持っていない23歳男性がいるらしい。

そんな噂を聞きつけた私は、早速彼の元を訪ねた。

「毎日同じ物を着てるんですか?」

「ええ。毎日同じ物を着てるんですよ。」

彼は照れ臭そうに笑った。2ヶ月前に買ったというグレーのコートは、既にくたびれ始めていた。

「ウチの店で、もう一着買ってください!!」

私は嫌がる彼を引きずり出すと、新宿のルミネエストに連れて行った。電車の中で、彼はずっと音楽を聴いていた。ぼやっとした緑と、紺を基調としたジャケットだったような気がするがよく覚えていない。

私の働く店はルミネエストの5階にある。頭文字を取ってアルファベット2文字で呼ばれることが多いが、名前は伏せておく。言う必要もなければ、義務もないからだ。

私は彼に似合いそうなコートを片っ端から持ってくると、全て着せた。彼はコートを着るたびに「あー」とか「うー」とか異国の言葉を発しており、結局どれが気に入ったのか分からなかったから1番似合っていた茶色のダッフルコートを買わせた。

(彼が目を離した隙に棚からワイドパンツを引っ張り出し、レジに持って行ったのはここだけの話だ。)

 

かくして彼は、「コートを2着持っている23歳男性」となった。

これからはローテーションすることでコートへの負担を減らし、ゆくゆくは私の店の常連になることを切に願う。せっかくコートに合うワイドパンツまで買ったんだ。篭ってないで外に出るのだぞ、青年。

-ユーモア

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