エッセイ

甘い甘いクリームパン

何を隱そう、ボクは甘いものが大好きだ。

子供の頃、父は静岡(静岡県民は静岡市のことを『静岡』と呼ぶ)に出張に行くと、駅のパン屋で必ずクリームパンを買ってきてくれた。透明なビニール包装からは都会の洒落っ気が感じられ、バニラビーンズの入ったカスタードクリームは、あの頃周りにあったどんなお菓子よりも甘かった。

あれがボクにとって、甘さの原点だった。24歳になった今でも、バニラビーンズを見るとテンションが上がるし、どこかであのクリームパンのことを、そして父のことを思い出す。

先日(とは言えかなり前だが)実家に帰った際に、父は例のクリームパンを買って帰ってきた。サラリーマン一筋30年の父は、何年経っても静岡に出張に行き、何年経ってもクリームパンを買って帰ってくる。たまたま出張の日にボクは帰っており、あのクリームパンにありつけたのだ。

東京で働いている今、もはやバニラビーンズ程度で都会の洒落っ気なんて感じないし、クリームパンより甘いものだってたくさん食べた。苦いのも辛いのも、酸っぱいのもしょっぱいのも、自分で選んでたくさん食べてきた。

実家を出て7年。帰るのは年に2~3回。いつのまにか白髪の増えた父と食べるクリームパンは、もうあんまり甘くなかった。歳をとると味覚が鈍るとは言うが、原因が果たしてそれだけなのかは、24歳のボクにはまだわからない。

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