エッセイ

泥水

2230分。駅のホームに点々と散った泥水を踏めば、鬱々とした気持ちまで弾けて飛んでいく。なんてことはまるでなかった。

冬物のコートは、先日クリーニングに出してしまった。4月とは思えないほどに冷え込んだ今日。薄い春物のコートでは、刺すような外気から身体を守りきれない。寒い。手が冷たい。今日も仕事が終わった。

1日が終わった。明日は休みだ。長い家路を急ぐ。どんなに早く帰りたくても、電車は焦ってはくれない。それどころか、いつも乗る電車が、無情にも遅れている。

立ち仕事で疲れた足を休めるために、近くのベンチに腰掛けると、泥水が尻に染み込んで、太ももまで濡れた。そうなることも判断できないほどに疲れていた。こんなに寒いのに、一丁前に鼻はつまり、口内炎は1週間前から変わらず痛い。

やりきれない、というのはこういうことだ。今後の人生には、何も良いことなんて無いのではと思ってしまう。弱っている証拠だ。正常な判断が出来なくなった人間は、生きる意味だとかそういった曖昧なものを探し始める。しかし泥水が染み込んで腐敗した脳みそでは、そんな綺麗なものは、永遠に見つからないのだ。

水溜りをひとつ、思い切り踏んでみる。飛び散った泥水がパチャリと弾けて、そしてその後、何も起こらなかった。

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