生きていると色々なことがあるもので、高校時代の友人から
「ホストクラブにゆゆうた見に行きませんか?」
と誘われることもある。
というわけで、ホストクラブにゆゆうた見に行ってきました。
11月某日。新宿駅で20時に待ち合わせて、友人とふたりで歌舞伎町に向かった。
「ホストクラブって、男性が行っても良いの?」と聞くと、
「いいと思うよ!私ホストクラブ行ったことないけど。」
と返ってくる。
…え?
そんなわけで、ホストクラブ初心者ふたり、いそいそと歌舞伎町へ向かった。
歌舞伎町の奥に進み、映画館を抜け、普段行かないエリアに突入し、ネオンが煌びやかになってきた頃、そのビルは現れた。
「CLUB DEJAVU」
クラブデジャブ、と読むのだろうか。看板には綺麗にお化粧をした男性が、源氏名と共にキメ顔で写っている。絶対にひとりでは行かない場所だ。僕は苦笑いを浮かべた。
余談だが、僕は中学生の頃、帰りのホームルームで担任の先生に、「このクラスで一番ホモにモテる顔は彦穂だ」と指名され、クラスを凍り付かせた経験がある。いや、実際に凍り付かせたのは担任の先生なのだが、それは後の人生においてちょっとしたトラウマとなり、LGBTが話題に上がりがちな昨今、少しヒヤヒヤしながら暮らしているのは内緒である。
どうしてくれるんですか、鈴木先生。
その話をすると、友人はうまくリアクションが取れなかったようで、口数少なくエレベーターに乗り込んだ。
5階で降りると、「CLUB DEJAVU」の看板と写真。そして、入口を塞ぐ人だかり。
何事かとよく見れば、
ゆゆうたが、いた。
なんかインタビュー受けてた。ドンキで売ってそうな蛍光色の衣装を着て、背筋を伸ばして、ゆゆうたが、いた。
生ゆゆうただ…!
何を隠そう、僕はゆゆうたさんのファンである。少しマイナーかもしれないが、特に「イキスギコード」のくだりが大好きで、孤独な夜に何度も笑わせてもらった。気になる方はYouTubeで「ゆゆうた 灼熱スイッチ」で検索してほしい。自己責任で。
インタビューを終えると、「お待たせして申し訳ありません、いらっしゃいませ」とイケメンに声をかけられる。
ゆゆうたの方を見れば、彼も慣れないのか、緊張した雰囲気を醸し出していた。
そうだよな、だってゆゆうた、ホストじゃないもん。
結果だけ言えば、ゆゆうたは最終的に我々の席に着いてくれたのだが、目は一度も合わなかった。緊張していたのかもしれない。
でも、実物もスマホで見るゆゆうたそのままで、すごく安心したのをよく覚えている。
ラブホテルのようなカウンター(受付人の顔が見えない)を通り、店中に案内され、高級そうなソファに座らされた。友人とふたりで「飲まなきゃやってられないよね」と飲み放題のハイボールをがばがば飲んでいると、「こんにちは」と色白のイケメンが近づいてきた。
「ご一緒してもいいですか?」
と差し出された名刺には源氏名が書かれており、ああ、こうやってホストはやってくるんだな、とシステムを理解し始めた頃、すでに彼は僕らの前に座っていた。
「ホストクラブは初めてですか?」
「おふたりはどういったご関係で?」
「お酒はよく飲まれるんですか?」
などと、こちらの緊張を解く言葉を優しく投げかけてくれるその男性は、初見でもわかるほどにプロだった。あとで分かったことだが、彼は店のトップ5に入るホストだったらしく、なるほどはじめてが彼のような男性だったら、リピートしちゃうわねこれは、と、いつのまにか女性口調になった僕は素直に感動していた。
「えっ!音楽やってるんですか!ボクもやってましたよ~」
「シーシャお好きなんですか?フレーバーの組み合わせって奥が深いですよね~」
などと、どんな話題を振っても当たり障りのない所から返事をしてくれる。その話題の広さが、トップ5たる所以なのかな、と思った。
「今日はゆゆうたさんのおかげで男性のお客さんがたくさん来てくれるんですよ~。ボク、男性と話すの大好きで!」
と言って彼は僕を見た。中学校の鈴木先生の顔が一瞬チラついたが、心を読んだかのように「ボクはそっちじゃないですよ!」と釘を刺される。
あら、私、あなたになら抱かれてもいいと思ってたわよ。
…いけない、ゆゆうたの記事なのに、イケメンホストの話で一段落を使ってしまった。
夜9時を回った頃、ゆゆうたは颯爽とピアノの前に現れ、颯爽とOMMCを歌い(気になる方は自己責任で検索!)、颯爽と帰って行った。リクエストしたのは「ゆかり」と名乗る若い女性だった。ご満悦なご様子だった。OMMCで笑っている姿が、なんだかとてもよかった。
そして我々の席時間(1時間)の終わり際、突如としてゆゆうたは現れた。
「はじめましてゆゆうたです。」
と言う彼は、想像よりも背が高く、地声は低かった。
しかし騒がしいクラブでもしっかりと抜けるその生声は、単純に「良い声だな」と感動した。画面越しよりも良い。世界から音楽ライブがなくならない理由が分かった気がした。
ゆゆうたのスタッフさん達が、僕らの席にスポットライトを当てる。先ほど目の前で「ゆかり~飲んでなくなァ~~~い…Wow Wow♪」と歌っていた(気になる方は自己責任でけn)彼が隣にいて、そこだけが煌々と照らされている。
不思議な時間だった。僕と友人はホストクラブでゆゆうたと語らい、ゆゆうたはニコ生配信そのままの口調で喋っていた。僕らはひたすらに「あなたのファンです」と訴えかけ、ゆゆうたはYouTubeに自らの動画が「卑猥」と判断されることを嘆いていた。
「どうしてニコ生からYouTubeに移動したんですか?」と聞けば「コレ(手を金の形にして)ですよね。」と答え、
「最近YouTubeを始めたのですが、登録者数を増やすにはどうしたらいいですか?」と聞けば「脱げばいいんじゃないですかね。」と答える。
潔い。
ますます好きになってしまった。
なぜか中学校の鈴木先生のことを思い出した。
つまるところ、僕らはゆゆうたから有益な情報を何も聞き出せなかったわけで、しかも写真も撮り忘れてしまった。ブロガーとしてあるまじき失態だ。
でもいい。あれは想い出にするくらいが丁度いい。なんとなく、そんな気がした。
ゆゆうたが去った後、僕らはホストクラブを出た。土曜日の歌舞伎町は有象無象で溢れ、ネオン街は僕らを喰らい尽くさんと凶暴な輝きを放っている。
さっきまでの時間はなんだったんだろう。僕らは二次会へ行き、一度もゆゆうたの話をすることなく、楽しく語らい、終電で解散した。
また会いたいと思った。今度はもう少し、静かな場所で。