うっぷ…。
ラーメン二郎は食事ではない。戦いだ。いや、闘いだ。コロシアムだ。
店内には、ストイックに麺を啜る音だけが響く。会話も音楽も、ほとんど聞こえない。
並んでいた時ボクの後ろで
「1年生の時より5キロも太っちゃってぇ〜」
「俺は今くらいが好きだな」
と会話していた糞カップルも、今は隣でズバズバと麺を啜っている。
食べるの早いなあんたら。そういうとこだぞ、オイ。
せめて5キロ太ったその顔を見てやろう。意地悪な気持ちで隣を見れば、
偉い美人が、そこにいた。
耳にかかるほどの、短い茶髪の隙間から覗くのは、上品そうなイヤリング。上向きの睫毛が、湯気の中に艶めいている。
何より、顔に無駄な肉がない。頬はスッキリと引き締まり、シャープな顎のシルエットが美しい。押せば折れそうな首は、女性らしく、きめ細やかで白い。
なんだ、と拍子抜けする。めちゃくちゃ痩せてるじゃないか。5キロ太ってそれか。どんだけ痩せてたんだよ、1年生の時。
ボクはもっと太ってても好きだな、と脳内で呟くと、直後、自分の声で、死ね変態、と聞こえてくる。彼氏の声かもしれない。
うっぷ…。
ダメだ、しんどい。色んな意味でしんどい。隣のカップルとボクの間には、一体どこで差がついてしまったのだろうか。
たとえば。
彼らはこの後、部屋に戻ってコートを脱ぎ、口が臭いよ?なんて言いながらじゃれ合い、借りてきた映画など観ながらまったりとした時間を過ごすのだろう。
一方ボクはこの後、職場に戻ってコートを脱ぎ、口が臭いですよ死んでください?と蔑まれ、備え付けのパソコンを観ながら鬱々とした時間を過ごすのだろう。
ああダメだ、しんどい。しんどいぞこれは。
なんでラーメン食って、こんな気分にならねばならぬのか。
丼にとぐろを巻く麺を見つめる。こいつらのせい?いいや、すべての不幸は自分のせい!
ああもう、畜生!見てろこの野郎!箸を取る。