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ブックオフの中に、一冊の本があった。
狭く細長い通路の一角。首を曲げて初めて見えるところに、その本はあった。
それを、一人の青年(注・作者。空を飛ばないものだけを指す) が手に取った。
紺色のカーディガンに、ラフな黒パンツ。髪はボサボサで、隠れた耳にはイヤホンが刺さっている。
「あった!」
青年は嬉しそうに呟くと、無造作にページを開く。そこには「2013年 初版発行」と書いてあった。
一瞬考えるそぶりを見せた青年は、本を閉じ、棚に戻さず歩き出した。向かう先には「Register」とある。
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喫茶店から出てきた青年は、歩道脇の自転車に鍵を差し込んだ。
すっかり陽は落ち、日中は暖かった街にも、夜の風が吹き始めている。
先ほどまでレジにいた白髪の老婆が、喫茶店から出てきた。そして目の前の青年に向かい訊ねる。
「ありがとうね。あなたはこの近くに住んでいるのですか?」
「ええ、まあ。」
「そう。よかったら、またいらっしゃってね。」
「ぜひ。そうさせてください。」
それから少しの間が空き、老婆がゆっくりと口を開いた。
「どうして、こんな古めかしい店に来ようと思ったんだい?」
一瞬考えるそぶりを見せた青年は、手元のビニール袋を掲げて答えた。
「さっき買った本を、読みたかったもので。」
青年は一礼し、自転車のスタンドを蹴った。帰り際、老婆がゆっくりとした動作で店に戻っていくのを、青年はずっと見ていた。
走る自転車の上で、ぼさぼさの髪が風に吹かれて広がっている。青年はどこか嬉しそうな顔で、あたりに誰もいないのを確認してこう叫んだ。
「本屋も喫茶店も行ってよかった!これで、ブログが書ける!」
※キノの旅ファンのみなさま、申し訳ございませんでした。僕も小5から読んでいるファンです。ほんの出来心です。許してください。本当に。