今日は成人の日なので、成人式の思い出をひとつ。
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中学の頃、ボクには友達と呼べる存在がほとんどいなかった。下品な話だが、当時から所謂「スクールカースト」は存在していて、ボクは間違いなく最下位だったと思うし、周囲にも溶け込めていなかった。今にして思えば無理に溶け込もうとしなくても良かったのに、当時は何とか溶け込もうと必死で、いつも空回りしていた。
中学時代に楽しい思い出なんて殆どない。だから成人式に行くのは気乗りしなかった。しかし、腐っても一生に一度のイベント。ついでに実家から会場までは歩いて5分。トドメに小学校から一緒の親友に「一緒に行こう」と誘われ、ボクは慣れないスーツに着替えて街へ出た。
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会場に着くとそこはさながら立ち飲み屋のようで、スーツの男と着物の女が5〜6人で談笑している姿が散見された。その中を肩身狭くおずおずと歩いていると、知らない女性に「ねぇ」と声をかけられた。
女「月岡くんだよね?」
月「はい」
女「私×××だよ。覚えてる?」
月「あー…2年生の時同じクラスだった?」
女「月岡くん、YouTube見たよ。音楽やってるんだね。すごいね。いつか有名になったら自慢するね。頑張ってね。」
思えばこの時、ボクは勘違いしてしまったのかもしれない。自分の音楽は大学の垣根を飛び出してこんな所まで届いているのだと。だから成人式後の中2クラス同窓会に参加したのも、きっと自己顕示的な下心が出てしまったからだと思うし、更に言えば当時の記憶を上書きしてやろうと意気込んでいたのかもしれない。
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駅前の居酒屋は酒気と活気に満ちていて、そこかしこで思い出話に花が咲いていた。身から出た錆とはよく言ったもので、タネを蒔いて来なかったボクには当然花は咲かず、錆が零れ落ちるばかりで、気がつくと貸切部屋の隅で1人お酒を飲んでいた。
飲み会も終盤。20歳の男女は皆ヘラリと酔っ払い、ボクはなんとか馴染もうと1人で杯を煽るも、まったく酔えなかった。いくつになっても溶け込もうと必死で、やっぱり空回りしていた。
会話が聞こえてきた。当時クラスの中心にいた女と男が、甘そうなカクテルを片手によく通る声で話している。
女「×××く〜ん」
男「なぁに?」
女「端っこに1人でいるあの人、誰だっけ?」
男「あぁ、えっと、月岡くん?」
女「そうそう、それ。…ねぇ×××くん、可哀想だから話かけてあげなよ(笑)」
男「おっけ(笑)」
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今にして前向きに捉えれば、女は気を遣ってくれたのかもしれないし、やっぱりただ×××くんと会話するキッカケに利用されただけかもしれない。結局男とは二言三言会話をし、1分もしないうちにそそくさと退散していった。「どこの大学行ってるの?」「仙台かぁ、行ったことないなぁ。何県?」
成人式の会場でYouTubeを見たと言っていた女は、どこを見渡してもいなかった。後になって分かるのだが、彼女は1年生の頃のクラスメートだった。ぐるぐる空回りした頭で、エービタイムシーユーと口ずさむ。誰も聴いていない。
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【エービタイムシーユー】
当時はデモ音源がYouTubeに上がっていました。