家から歩いて2分の場所の、とある喫茶店に着いた。
そこは「カフェ」よりも「喫茶店」がしっくりくる、ザ・昭和 な店だった。いや、何なら大正ロマンと言っても差し支えなかった。
平均年齢はおそらく70を超えており、ボクの3倍近くも生きてきた歴戦の猛者たちの集会所となっていた。
人々はカウンターで話し込んでおり、銀座、とか、せがれ、とか、そんな単語が聞こえてくる。
明らかに、刻が、止まっていた。
コーヒーだけ飲んで帰るつもりだった。気が付くとそんな空気にアてられて、ナポリタンを目の前にしていた。
外食で注文するのは初めてだった。真っ白な皿に小高く盛り付けられたそれを見て、なぜか胸がキュッと締め付けられた。昭和の味が分かるわけもないのに、確かにそれに、昭和を感じた。
あれは日本人のDNAだったのか。なんにせよ、信じられないくらい美味しかった。
本を片手に食後のコーヒーを頼み、だらだらと2時間くらい居たのだろうか…。気が付くと客はボクだけで、マスターが客席で新聞を読んでいた。
あの新聞にはきっと、「夢ノ超特急。東海道新幹線ガ開通。」とか書かれていたんだろうな。スマートフォンを見ながらぼんやりと考える。