エッセイ

正月に店を開ける必要、ありますか?

「365日営業を辞めて、年末年始は休みにします。」

幸楽苑のチラシに、そう宣言してあった。日頃働いてくれている従業員に感謝をこめて、ということらしい。

素敵な試みだなあ、と思うと同時に、どこかに違和感を覚えた。

そう、まるで普段ケンカばかりのヤンチャ君が急におとなしくなり、周りから褒められているかのような。残業ばかりのブラック企業で、定時に上がれて喜んでいるかのような…。

 

要するに、「年末年始休みは、デフォルトでよくないか?」と思ったのだ。

 

そりゃあ、年末年始に稼働しないといけない理由だって痛いほど分かる。そこには需要があり、その分普段より利益が出て、それは即ち会社や店の存続に繋がる。「正月に稼働しないと採算が…」というところだって幾らかはあるかもしれないし、社会システム上、365日稼働が義務づけられている所もあるはずだ。(例えば街の病院がすべて閉まったら、大惨事だ。)

 

それにしたって、2019年の正月は開いている店が多すぎた。…ような気がする。

 

例えば、実家近くのスーパーマーケットが営業していた。大きな店なので年末は多くの客で賑わったことだろう。しかしその日、客はまばらで、店員も虚ろな目でヨーグルトを並べていた。店内には申し訳程度に正月音楽が流れ、関係ないがレジ打ちのおばさんがお釣りを間違えて渡していた。

 

これはもう、休みで良くないか? 素直にそう思った。

 

例えば寿司屋。これは分かる。正月は寿司に圧倒的な需要があり、加えて寿司は生ものだ。前日に受け取るわけにはいかないし、実際に寿司屋の前には斑模様の行列ができていた。

しかし例えば、スーパーや牛丼屋、本屋やコンビニが空いている必要は果たしてあるだろうか。「今まで開けていたんだから今年も開けるんだよ!!!」などと思考放棄せずに、一度胸に手を当てて考えてみてほしい。

 

本当に、その日、開ける必要は、あるだろうか?

開けないと、社会は、回らないのだろうか?

 

そこで働くのが幸せなら何も言うまい。ただ、そうでない人もいる。家族の時間や旧友との再会を、「必要のない出勤」によって阻まれている人が少なからずいると思うと、ボクは胸が張り裂けそうになる。

 

だから幸楽苑のチラシには胸を打たれた。と同時に、あのチラシに胸を打たれない2020年を、強く望んでいる。

-エッセイ

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