体温計

ある日起きたら、眩暈がした。

種々の事情により、大学卒業とともに家具や雑貨のほとんどを手放した。そして今になって、その副作用がじわじわと出てきて困っている。

どこにも、体温計が無かった。時計を見ると、出社の時間が迫っていた。

一人暮らしは、意外なモノが抜け落ちやすい。たとえばウチには、テレビが無い。こたつ布団が無い。茶碗が無い。しかし困ったことも無い。テレビの代わりにYouTubeを見ているし、こたつ布団の代わりに暖かいラグを買ったし、米を炊くことはあまり無い。

「絶対に必要」と思っていたモノも、考え方次第で要らなかったりする。そりゃあ、あるにこした事は無いけれど、無いなら無いで楽しく暮らしていける。

体温計なんて、無くたって問題ない。…それでもひとつだけ、無いと困るモノがある。

それは、友達だ。友達の代わりはいない。代えなんて効かない。だから数少ない友達を、いま一層大事にしよう。連絡を取っていないあの人に、連絡を取ろう。…朦朧とする意識の中で決意して、ふらつきながらソファに倒れ込んだ。会社に電話して、休みますと告げて寝た。

たぶん、高熱だった。夕方起きて、冷蔵庫を開けると、そこにはポカリが無い。困ったな。無い。

 

ーーーーーーーーーーー

関連記事

  1. これからのコーヒーの話をしよう。

  2. 仕事初めの、朝のこと。

  3. ウミガメのスープ(後編)

  4. かたのちから。

  5. ノンフィクション・ストーリー・オブ・池袋

  6. ボクは今夜、

  7. 日高屋の迷惑老人

  8. ウミガメのスープ(前編)

PAGE TOP