エッセイ

拝啓 点鼻薬様

3年かけて鼻炎を治すんです。ただし日本ではあまり流行ってないので、保険は効かないですけどね。

数年前、とある耳鼻科で、そう言われた。

 

生まれてこのかた、鼻呼吸を満足に出来たことがほとんどない。アレルギー性鼻炎のせいで、慢性的に鼻が詰まっているからだ。

そんな身体なので、我ながら、歌というのは悪魔的な趣味だなと思う。鼻が全快したとき、ボクはどんな声で歌えるのだろう。

その景色を見たくなった。3年かける胡散臭い治療に、ふらりと乗っかってしまった。

 

季節は春だった。花粉症を併発しており、毎日人の形を保つのがやっとだった。残念ながら例の薬に速効性はなく、3年後を夢想して日々耐え忍ぶ他なかった。

そう考えると、点鼻薬というのは偉大だ。速効性がある。というか速効性に全パラメータを振っているような薬だ。歌う前、寝る前、食事前、点鼻薬を刺す。すると嘘のように鼻は晴れやかになり、透き通った風が鼻腔に注ぎ込んでくる。

一瞬だけ、だけれども。

 

いつのまにか、件の3年薬は辞めていた。辞めたことにも気づかなかった。今になって、ふと思い出したのだ。

そろそろ3年経った気がする。あのとき薬を飲み続けていれば、今は変わっていただろうか。今なら保険効くかな。

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