エッセイ

梅雨入り

沖縄が梅雨入りしたと、気象庁が言った。

仙台の梅雨は寒かった。学生の頃、原付バイクでバイトに行く道中、5月だと言うのにダッフルコートを着て、手袋をはめてマフラーを巻いた。日中はさすがに蒸し暑かったので、学校が終わると一度家に帰り、もぞもぞと冬装備になってバイトに向かうのが日課だった。

しとしとと雨が降っている。雨に降られて、ダッフルコートが重くなっていく。撥水加工だったはずのそれは、何年も着ているうちに水が染み込むようになっていた。

しっとりと湿ったコートが、身体の熱を奪っていく。じんわりと寒かった。冬とはまた違う、梅雨特有の撫ぜるような寒さだ。

今思えば、その寒さは単純に、東北×バイクのコンボ技だった。だから仙台を出てからは、梅雨を寒いと思うこともなく、それはただ、じとじとと蒸し暑い季節に成り下がった。

別に仙台の梅雨が好きだった訳じゃないけど、1日くらい、東京にも寒い日があってもいいのに。

空を見上げると、容赦のない太陽と、雲ひとつない青色が広がっている。この空のどこから寒くなるんだろう、と東京と東北の境目を探した。

-エッセイ

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