音楽と映像は、もはや切っても切れない関係になってしまった。
たとえ曲が微妙でも、MVに可愛い女の子が出ていれば最後まで見てしまうし、どんなに良い曲でも、映像がショボければ1サビで止められるのがオチだ。
しかし、そんな「映像ブーム」も最近は後退しているように思う。
2010年代前半から中盤にかけて、いわゆる「邦ロック」ではキラキラしたMVが流行っていた。
ダンスがあったり、ストーリーがあったり、曲そのものではなく映像を楽しめと言っているかのような風潮を、ボクは好きになれなかった。無声映画を観に来たんじゃねえ!とすら思っていた。
2010年代を代表する楽曲のひとつとして、RADWIMPSの「前前前世」がある。
映画「君の名は。」の主題歌として作られたあの曲を、聴いたことのない人はいないだろうし、実際ボクも何回も聴いた。ストレートなバンドサウンドと、耳に残る歌詞。「シンプルイズベスト」とはまさにこの事。素晴らしい曲だと思う。
この曲の恐ろしいところは、MVに「君の名は。」の映像を使っていない所だ。RADWIMPSの3人が緑の中でストイックに演奏する。途中に茶番もあるが、全体的に「RADWIMPS」を押し出したMVになっていた。
もうひとつ、米津玄師の「lemon」。こちらも米津玄師が教会で大勢と歌うMVとなっており、ストーリーらしいストーリーや可愛い女の子は登場しない。
それこそ「前前前世」は「君の名は。」を、「lemon」は「アンナチュラル」を前面に押し出しても良かったはずだ。共に作品として流行っていたし、新規のリスナーも入りやすい。
しかしながら、そうはしなかった。にも関わらず、両者ともYouTubeで恐るべき再生回数を叩き出した。
ボクは考えてしまう。
もしも、映像が作品とリンクしていたら…?
さあ、
お待ちかね、米津玄師の「海の幽霊」。
映画のシーンと一緒に聴く前提で作ったのだろう。「海」というだけあって、ものすごぐスケールが大きい。名曲「You Raise Me Up」と「海の幽霊」を、ボクは「死ぬときに流したい曲」というジャンルで括りたい。
圧倒的な映像美。そして、その美に相応しい米津玄師の圧倒的な作曲、編曲の力。ほぼ全編通してかかっている複雑なハーモニーが、サビで両耳に広がるミックスも素晴らしい。
YouTubeのコメントに「米津玄師にしか歌えない」とあったが、その通り。あれは米津玄師にしか歌えない。一聴して誰の曲か分かるのは、その人がオンリーワンである証拠だ。
米津玄師の「海の幽霊」のMVは、楽器と映像の総合点で2010年代ぶっちぎりの1位だと思う。是非映画館の大画面&大音量で、その世界に浸りたいものだ。