エッセイ

ウォーカーズ・ハイ?

都内で飲むと、帰りが面倒だ。

埼玉県にある我が家に帰るには、その街から2回の乗り換えが必要だった。家の最寄路線に差し掛かる頃にはもう日が変わっていて、そんな時間だというのに車内には大量の酔っ払いが蠢いていた。…かくいう自分も、その1人だ。

吊革につかまって目を閉じる。おっさんがもたれかかってくる。気持ち悪い。邪魔だ。ああくそ眠い。朝5時起きだったもんな今日。なんでこんな遅くまで飲んじゃったんだろう。

仕方ないよな、久しぶりに会う先輩だったし。終電で帰れたのも奇跡だ。よく飲み屋で気付いたものだ。

意識が遠のくことすら感じず、ボクは眠ってしまった。吊革につかまって眠るのははじめてだった。

 

車掌のアナウンスで目を覚ますと、見慣れない場所にいた。○○駅〜という声に、半ば反射的に電車から飛び降りる。寝ぼけながらスマホを取り出すと、到着予定時刻はとっくに過ぎていて、最寄駅を降り損ねたことにぼんやりと気がついた。えっと、ここどこ?

深夜1時を回っている。逆方面へ向かう電車は存在せず、タクシーが来る気配もない。駅員に聞くと、この時間にタクシーは来ないという。終電逃しちゃったの?こんなところで?哀れみの目でボクを見る。

 

仕方ない。歩くか。

 

そう決意するのに、時間はかからなかった。少し寝たとはいえ眠気は限界だったし、明日は昼から予定があったし、何より家に帰りたい。ここにはネカフェどころか空いている店がない。野宿はごめんだ。

スマホで調べると、家までは歩いて40分らしい。なんだ、意外と近いじゃないか。大学生の頃、仙台の家から繁華街まで歩くとだいたい40分だった。何度も飲んで、何度も友達と歩いた距離だ。

今更そんな距離、どうってことない。

 

1人、知らない街をがしがしと歩く。深夜だと言うのにまとわりつくような暑い空気が身体を覆い、電車で乾いた肌もたちまち汗だくになった。暑い。熱い。顔の脂がひどい。ワックスが汗で落ちてベタベタする。朝剃った髭が、もうだいぶ生えてきた。パンツの中で、足全体が湿って気持ち悪い。張り付くなパンツ。昼は結構涼しかったのにな。

誰も見ていないのをいいことに、カーディガンを脱ぎ、半袖のTシャツも脱いだ。ジーパンとタンクトップだけになり、さらにがしがしと歩く。スピードを上げる。時折地図を確かめながら、なるべく時計を意識せず、大股で歩みを進めた。途中たまらずコンビニに寄り、500mlの水を買い、一瞬で飲んですぐ捨てた。

気づけば眠気もすっかり覚め、いつのまにかイライラや雑念も消え、ふと顔を上げるとそこは家だった。25分ほどで到着していた。どんだけ飛ばしたんだ、自分。鏡を見ると、なぜか顔が笑っている。汗だくで。

火照った身体が思いのほか気持ちよくて、玄関で全裸になってシャワーに飛び込んだ。

 

…ってのが、3日前の話。

 

なんかね、無性に書きたくなっちゃって。オチがなくてごめんなさいね。

-エッセイ

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