エッセイ

「結婚することになりました」だって?

身近な人が結婚する。

そんな夢を見ることが増えた。

 

それは親友だったり、元恋人だったり、ちょっといいなと思っていたあの娘だったり、とにかく今までの人生で深く関わってきた人間が、最近は次々と結婚している。…違った。結婚している「夢」をよく見る。

 

その「しらせかた」は多岐にわたる。

ある人は「あの人と結婚することになったの」と居心地悪そうに笑い、ある人は「いま3ヶ月なんです」と愛おしそうにお腹をさする。「今までみたいには遊べなくなるな」とニヤニヤする男や、「これお願いします」と、身元変更届を渡してきた女性もいた。…ボクは貴女の同僚じゃないんですよ。ていうか久しぶりですね。×××さん。お元気ですか。

 

しらせかたこそバリエーションに富んでいても、彼らにはひとつ共通していることがある。

 

「結婚するから、もう、会えないね」

 

というメッセージ。これを皆、必ず、言う。

 

そしていつも、ここでハッと目が覚める。

嫌な汗をかいている。布団の中で、掌がじっとりと湿っているのが分かる。

しばらくして夢だったことに気づいて…

 

少し、ホッとする。

 

…なぜ?

祝ってやればいい。それが誰であろうと、結婚とは間違いなく祝福すべきイベントであり、どう考えたって手放しで喜ぶべきだ。

それなのにボクは、彼らの結婚が夢だったことにホッとしている。

 

ああ、と溜息をつく。ああそうか。

自分だけ取り残されるのが、怖くて仕方ないのだ。

 

 

夢を見た後、本人にLINEをしたくなる衝動を必死に堪える。そんなこと思いつくのも気持ち悪いし、送るのはもっと気持ち悪い。未だに仲の良い友人ならまだしも、元恋人や高校時代の友人に「君が結婚する夢を見た」だなんて……そんなの…絶対やりたくない。

 

何度か夢を見たが、幸いにも、LINEを送ったことはない。でもその日は一日中どこか、その人のことを考えてしまう。そんな自分が情けなさすぎて笑えてくる。

情けない自分を擁護すべく、責任転嫁の先を探す。ああそうだ、こんなものがあるから悪いんだ、と湿った手でスマートフォンを手に取れば、緑色の長方形の中に見慣れた名前が表示されている。

-エッセイ

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